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小さな変化,大きな一歩

04.09.07 (火)
 単身赴任の生活を始めて3年目である.私の食生活の大部分は近くのコンビニ(セブン○△□◇)に全面的に頼っている.赴任直後は自炊生活にチャレンジしようとしたものの3日と続かなかった.配偶者から言わせると,外では「障がいのある人の自立生活とは...」と偉そうに講演したりしているが,「自立できていないのは当の本人」ということだ.まったくそのとおりで弁解の余地が無い.おはずかしい.穴があったら入りたい.1週間に少なくとも3日程度はここに顔を出すため,店長(オーナー)と知り合いになった.昔の商店では客の名前を覚えられるのは一般的であったが,最近のお店,とくにファーストフードやコンビニで名前を覚えられることを期待する方がおかしい.しかし,このお店の店長はちょっと変わっている.お客ととてもフレンドリーなのだ.大学の近くにあることもあるが,店へくる学生の相談相手にもなっている.
 配偶者からはコンビニ弁当ばかりではからだに悪いからたまにはヒジキや野菜なども食べなければいけない,最近のコンビニにはあるかもよ,と言われた.お総菜が置いてありそうなコーナーを物色していると,店長に声をかけられた.配偶者が言っていたことを話すと,からだに良さそうなものがあれば次回入れておきますからと.一週間後には,新しい野菜のメニューが増えて,私の食生活に彩りを添えるようになった.この頃からだろうか,店長といろいろと話すようになったのは.
 実は以前から不便というよりも悔しい思いを感じていたことがある.透明なサラダのパッケージの蓋を開けようとして,いつもとまどってしまうのである.容器の本体と上蓋を固定している透明の接着テープが見えないのである.サラダの上蓋を開けるたびにメガネ(老眼)をかけなければならない.それが面倒で,メガネをかけずテープをはがそうとして,サラダを床にぶちまけてしまったことが何度かある.
 ある時,その腹立たしさを感じながら店長に思いを伝えた,透明ではなく着色されたテープにできないのかと.店長からは,店長会議で提案します.改善できるように努力しますとの返答をもらった.それから1ヶ月が経ち,さらに月日が経ち.目が合うたびに店長は申し訳なさそうに「実現できていなくてすみません」の言葉が.私は申し訳なさそうに謝る店長を「1,2年かかってでもいいから」と励ましながら,心の中では「一顧客の意見が,大企業の中でそんなに簡単に通ることは難しいだろうな」とつぶやいていた.そして,さらに月日が経ち,私の中ではこのことへの問題意識すら薄れかけていった.
 そして今日,赴任先へ戻り数週間ぶりにコンビニに顔を出すと,私の顔を見るなり店長が嬉しそうな顔をして手招きする.何だろうと近寄っていくと.「これ見て下さい」とサラダのパッケージを私の目の前に差し出した.そこには,メガネをかけていない私の目にもしっかりと見えるテープが貼り付けてあった.
 「やったね店長,おめでとう.ほんとうにありがとう」 ほかのお客さんのことは忘れてしまい,思わず大きな声を出して,店長と一緒に喜んでしまった.
 ひとりひとりの客の声に耳を傾け,何事も最後まであきらめず取り組むこの店長に尊敬の念をいだいた.小さな一歩でも,こうやって世の中を変えていくことができるんだということを教えられたような気がした.このことを世の中のことを見失ってしまいがちな学生達にも伝えていきたい.

salada.jpg
(パッケージの左右に半透明のブルーの接着テープがある.視認性はとても良い)

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