表紙 前へ 次へ 最後 目次 詩集
あった筈なのに
人には一つや二つの夢がある筈なのに
私には浮かんでこない
鎖につながれた犬のように
何をたべさせてくれるのか
いつ運動させてくれるのか
ほんのわずか先を考えるばかり
ああ私の夢は
いったい何だったんだろう
ああ私の心の叫びは響くのは
時計の軽薄な呻きばかり未来へ
再び夏を迎えようとしている
人生を感じはじめ幾ばくかの時が過ぎた
あんなにも命の終わりを意識しながら生きていた日々が遠い昔のように脳裏に浮かぶ
生きる意義
それを考えていたあの頃
けれど今の私には生きるという人生の大きな表題を考える事が無意味のような気がする
残った幾らかの時を心の赴く儘に死の恐怖という槍が私の胸に、心に、突きつける
けれどその槍を強固な盾で防ごうとは思わない
人生の振り子を操る者から身を守ろうとする行為は自然の論理を踏みにじることに通じるのではないだろうか
今まさに私の前を塞ぐベールが開き
未だ見ぬ世界をおぼつかぬ足どりで
歩を進めてゆこう
黄泉の世界へ導かれるまで叫び
暮しが辛いのではない
暖かいこの街の暗がりから
強風吹く無法地帯へ
逃れたいだけなのだ
拘束された空間からは
窓の外が閉ざされた世界には見えず
凍りついた表土にも
まして痛ぶる鞭にも
だが体は
ひとひらの水の中で
身動きできないままに
眼光鋭く過ぎ行く者を捕らえ
とりつかんばかりに
泣き叫んでいる
僅かばかりの快楽でもいい
一瞬の安らぎでもいいから
自由をくれ
束縛のない国のパスポートをくれと
言葉ばかりが胸に溢れ
喉につかえ今にも窒息しそうだ
黄泉の案内所から逃げだした私に
自然は何を教えてくれたのか
生の喜び?
想いを伝える言葉?
死の呪文の消去方法?
騒音に埋もれた生活には
羨む言葉ばかりが
脳裏をかすめる
生かされているという
現実などいらない
生きている実感を
この肌で確かめたいのだ
そう口にすると
世間の者たちは笑うだろう
声にせず瞳で
それでも願いばかりを唱えるのは
愚か者だから再生
あなたの私にかける言葉は
私を励ますエネルギーがある
しらけた言葉でもパワーがある
一度は遠ざかり始めていた時間も
あなたの決断と私の中の救いの糸で
現実(イマ)歩いている
季節の花が美しい 風が冷たい
この世には憎しみも恨みもある
けれど恵みも喜びも救いもある
だから歩いてゆける
背負った運命も目を塞いではならない
じっと見つめて耳をそばだてて
歩く道を切り開かなくては
限りある時間を無駄にしないように
失敗したっていい全てが無駄ではないのだから
だから私があるのだから
私がいるからあなたがいるのではない
あなたもいるから私もいるのだ
明日という字は陽が昇り月が上がれば
日が変わると書く
悔やんでばかりはいられない
常に動いている
私の前に道はあるが
私の後に道はない
未来の遠くに視線を走らせ
時間の尽きるまで
再生の生命を受けたのだから
休みはしない 私のために何のために
何のために生きるのだろう
幾度 我が胸にぶつけたか
いつまでも終わらない繰り言
時が闇に近付いたとき
また 繰り返している
生きるとは何か
いつもと何一つ変わらぬ時を過ごし
いつもと何一つ変わらぬ言葉を交わし
いつもと何一つ変わらぬ思いを巡らし
いったい何のために
けれど私は生きることを許される日まで
神よ 仏よ この世に存在するのなら
私はあなたがたの手の中で
いつまでの泳ぎ続けたい人工呼吸器
薄暗い明りの消えた部屋
単調な様々な音が響く
騒音と思えるほどの音量
部屋の中を埋める
機械の冷たい音でありながら
どこかで聞いた子守歌のように
やさしく聞こえる
人間のものとは思えぬ吐息
絶え間なく繰り返す
この音が消えたとき
私の命も尽きる
今は何も起こらないだろう
起こるはずはない そう思いながら
いつしか 安らぎの眠りへと
ふと 目覚めると
命の吐息が聞こえる
私は生きている蝕まれた肢体
肢体を蝕まれた者は
食べることも呼吸も
自力では何もできず
天井を見ることしかできない
悲しくても鳴けず
孤独でも寂しさを言えない
ただ消え残った希望と夢を
消化しながら視線を惑わし
時折うかぶ幻影に笑みを浮かべ
黒衣をまとった太陽に向い
声にならない声で何かつぶやいている
見よ この無残な姿を
これが病に冒された人間なのだ
自由を失った人間なのだ
隠しはしない
偽りは言わない
全てをこの手帳に記し
後世に残すのだ生きる屍でも幸せだったと
季節
失したものは数限りなく
得たものは抱えきれない
私の中に宿る者は
いくつもの糸や波を繰り出し
私はそれに揉まれ叩かれ曵かれ
最後の土地に辿り着いた
もう何処へも流れない
風は吹き続け
心に季節を運ぶ
手を差し伸べ支える 春
突き放す 夏
暖かく包む 秋
孤独が襲う 冬生きているから
辛くなる 苦しくなる
記憶の中の世界(クニ)にいるならば
感じることもないだろう
そして今 大きく息をして
思いを記している
愛すべき人がいる愛を知らない
生まれたときから
与えられる愛に埋もれてきた
人に好意を持ったとき
恋心を囁くことは
要求だけの差のある言葉
同じ位置で見つめ合うことなんて出来はしない
だから
私は与える愛を知らない
本当の愛とは何か
好きだと言うことだけで 愛と言えるのか
人は愛という言葉の幻想を
いつも眺めながら
自分の心の中に住みたがる人に異質な気持ちを持ち始めた時
思いという幼虫から変態を始め
恋という蛹に変わり
そして
愛という色しか見えない蝶へと
羽化し姿を変える
甘い蜜を吸い始めたばかりの蝶は
弱視でしか有り得ない
目の前にいる実像は見えはしない
いつしか時が経ち花が終われば
覆いの無い体が現われる
そして 本性を見たとき
その愛の意味が深い心の中の
お互いの姿や色が見えるはず
いつか囁ける人が現われたとき
私は愛を与えることが出来るのか
それが本当にどの言葉にも替えがたい
真実の愛を与えられるのだろうか熟れぬ果実
生命あることが幸せのはずなのに
いつもあなたと呼べる人を捜している
人の気持ちを計れぬのに
私のことを計って欲しいと思うのは
単なる欲望に過ぎない
優しさがなくして人を求めるは
畑を耕さずして実りを求め
肥料を与えずして収穫を夢見るも同じ人の心の支えなくとも
人の笑顔見えなくとも
生きて行ける
と唱えようとも
一人よがりにしか見えぬのは
未だ熟さぬ青き果実
永遠に熟せぬ
絵に描いた青き果実にすぎぬからだろういつかあなたと呼べる人に出会えたとき
私は見つめられるだろうか流れた涙
流れた涙を乾かす言葉を知らない
幾度も流れ行く涙を目にした
その度ごとに視線をそらす
いつしか思いは静まり
やっと涙が乾いたのに
また溢れてきた
けれど乾かす言葉を知らない
ただ眺めるばかり昨日まで見てきた
喜び、悲しみ、怒り
いつも同じように繰り返してきた
何気ないしぐさ
思いでは全て霧のように
淡く霞んでいる
溢れそうな涙を見たとき
写ったものは言葉を知らない
流れた涙を乾かす言葉を知らない
いつか私にも
涙で霞む終えんの時が訪れる
そのとき誰かの頬を流れる涙を
乾かす言葉を知るだろう魔法使い
永遠に解けない魔法をかけた魔法使いの君よ
君はなぜ私に魔法をかけたんだと
君に問いかけても
君には解けないはず
なぜなら
人の人生を変えられる程の
魔力はない筈なのに
かかってしまった
そして君の未熟な魔法は体だけではなく
人生ゲームも変え
そしていつしか 家族の鎖さえも
ちぎってしまった
今まで幾度となく私は君の未熟さを恨んだ
けれどその未熟さがよかったのかも知れない
なぜならこんなに暖かく
こんなに素敵な人々に会えたのだから
しかし 未熟な魔法使いの君よ
これ以上私のようになる
呪文を唱えるのは止めてくれ悪魔
彼の背にも現実が襲いかかってきた
誰もが見つめたくない現実の自分
体は少しづつすこしづつ蝕まれ
ついに表に病魔という悪魔がその正体を現し
そして 心の奥に宿る牙城を築き上げた
決して破壊することの出来ない強力な力で
私の中にも彼の王国を
私が喘ぐとき彼はその力を増し私を押え込む
しかし 私の守護神はそれを阻もうと必死に耐える
その守護が耐え尽きたとき亡骸としてそこに横たえ
支配する者の元へと戻るのであろう
私にも私の中に棲む悪魔は前触れもなく
私に近づきそして私にある筈の永住許諾の権利も得ずして
棲みついてしまった
もう彼を国外退去の命さえも出すことが出来ない
そんな権力さえもいない 無くなってしまった
いつ破裂せぬや知れぬこの凶器
今まさに有り得る出来事を思い浮かべながらも
それに屈することなく我の欲する欲望にすり替え
ただ心の充足の為だけにわが身を酷使する
そのために没するならば私は後悔などせぬ儚き想い
愛する欲望と愛されたい欲望は
止まることのない波のように
揺れあい重なりあい打ち消しあう
波間を飛ぶ海鳥は
ただ生きるだけの悲しみを知らない
知っているのは
朝が明けると闇が来ることだけ意のままに暮らす野生の民は
鎖に繋がれた仲間の姿を悲しんでも
自由に暮らせる喜びを知らない
知っているのは
自然に恐れるだけの偽りの自分川の流れに漂う笹舟は
淀みに停止することを
当然と知り流れることを知っていても
いずれ消え去ることを知らない人は捕らえられないものは
欲しくても
自力で獲物を捕らえようとはせず
捕らえられない
無力の儚(ハカナ)さだけは
知っている街は・・・
暗黒街をさまよっている頃
街には鎮魂歌が響き
空は暗雲が覆い尽くし
自分以外の声は聞こえず
孤独の嵐が吹き荒れていた
憐れむような視線を送るばかりで
何も言わない
目に飛び込む風景は
我が身が溶け込むことを
拒もうとはしない
むしろ招き入れるかのように
城門を開き手招きをする
自力で歩くことに疲れた体は
その場に立ちすくむと
動かぬ手足が悲鳴を上げる
それと同時に
躰と心が分離を始めると
白い衣をまとった医術師が
舞い降りると喉元に穴を開け
寝台に縛りつけ姿を消した
すると生まれたばかりの時のように
すがすがしい風が吹き抜け
分離を始めていた心は
再び戻り 強く鼓動を始めた
蘇った世界には
喧騒と人の息づかいが溢れ
生きることの喜びと
終焉を待つことの悲哀が
交錯する
闇夜に星はなくとも
心をほのかに照らす月は
自然に融合する日まで
見守り続けるだろう風
風の中で生まれ 風の中で育ち
吹かれ包まれ 感じながら生きている
薄暗い明りに浮かぶ白い天井を
見つめているときも
ただじっと遠くを眺めているときも
絶えることなく
それは
目に見えるものでなく
言葉として伝えられるものでなく
心のスクリーンだけに写る映像であり
心の中で奏でるミュージック
時には
阿修羅の如く無愛想な嫌味な風も
吹くこともあるだろう
常に様々な風に吹かれ
命を繋ぎ
明日の営みを浮かべる
もう遠くない
エデンの園
しかし 私はまだ見たくない
幻の園など
現実の風を 光を
背に肌に受け
私の体を通り抜ける風を
追いやりながら
まだ見ぬ未来へと続く風を感じていたい未知の向こうへ
触れ合う手に心奪われ
胸が震えている
見つめ合う時が止まっている
君だけを愛しているのに
なぜ愛し合えないの
僕は君を奪いたい
今を捨てて
認められない愛なんて
言わないで
けれど僕にはできない
鎖がほどけない抱きしめたくても
抱きしめられない
君が目の前にいるのに
時の川を渡れない
こんなに愛しいのに
求められない
どうにもならない愛なんて
言わないで
けれど僕にはできない
覆いを払い除けられない今を壊せるなら全てを壊し
時代を忘れ
遠く未知の向こうへ夢だったのか
あれは夢だったのか
近所のおじさん達が集まって酒を飲んでいた
そこで僕の料理の日ごろの腕前を見せてやった
おじさん達が言った「とってもおいしい」と
それから夢見ていた
よし、俺は料理人になろうと
けれどいつしか
『君の夢は』と
響きながら遠くの方で聞こえる
あれはいったい何だろう
ほらまた聞こえる
本当にあれは夢だったのか
唯のうわごとだったんじゃ
いや確かに心の鏡に写ったのに
いつの間にか
何も夢は写らなくなっていた
あれは夢だったのか冷たい雨
喜びと悲しみは背中合わせ
さっきまで微笑みあったのに
もう今は知らない二人
出会ったばかりの頃は
君のことを知りたくて
心の中でメモをとっていた外は冷たい雨
他人と恋人は背中合わせ
同じ足どり歩いていたのに
もう歩はばが違っている
初めて抱いたとき
とても愛しくて
離したくなかった外は冷たい雨
安らぎ
喧騒に埋もれた日々
常に時間に追われ
緩やかに流れていた時も
速くながれはじめた
いつしか季節の迷路をさまよい漂う
私の中にあった季節の事象のパレット
僅かな時間(とき)の移りの筈なのに
遠く薄青に浮かぶ火の山も
咲き乱れる花々も
目に入るものが真新しく見える
肌をすり抜ける初夏の風が心地よい
恋をささやきあうのか
揺れる草むらに鳥達は戲(タワム)れる
緑濃き木陰は忘れかけていた
心の安らぎが私の許へ薄桃色の君
僕がふと目を覚ますと何か人の気配
しかし誰の姿もない
ただ聞こえるのは命を繋ぐ規則的な音ばかり
僕はいつも見つめているよ
その愛くるしい姿を
決して美しいとは言えない
悲しいとは言えない
何故なら君はいつも僕に
安らぎを与えてくれるから
僕はいつまで君を見ていられるだろうか
また春も また夏も また秋も
そして再び来年の冬はどうだろう
その姿を見せていてくれるだろうか
僕には君の姿は
大地に咲くだけの花には見えない
それは僕だけの幻なのだろうか
口のない君がいつも僕に囁き掛ける
私はいつまで咲けばいいのとさよなら
グラスを傾け悔しさ紛らす苦い酒
あなたの顔なんか見たくない
いつもと違うことに気づいたの
じっと見つめた瞳に私の姿が見えなかった
この日が来ることは知っていたの
きっと私のせいね
貴方のくれたリングをはずしていたの
赤いヒール左足から履いたわ
気づいていたのね
キスが甘くないことをあなたに抱かれた思い出の夏
全てが美しくきらめいていた
肌もこの指も
編みかけていたセーターほどきます
あなたの笑顔浮かぶから
赤い口紅も今日限り
あなたの香り忘れてたいから
旅に出ますあなたの知らない街に頬を伝う涙は心に冷たく
凍りつきそうよ
でも大丈夫一人で暖められる
私は強いから表紙 前へ 次へ 最後 目次