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僕の気持ちを語りたい
                       NHK 加藤 明

 筋ジスの方がコンピュータを操作してパソコン通信をしている。そんな話しを偶然聞いたことが轟木さんに会うきっかけでした。でもその話を聞いたときにはあまりイメージがわきませんでした。なによりも『筋ジス』という言葉と操作の複雑な『コンピュータ』を結びつけて考えるのがむずかしかったからです。しかしそんなこだわりは轟木さんに会うなりあっというまに消えてしまいました。彼が懸命に心の中にあるものを表現している姿を見ていると筋ジス・コンピュータがどうのこうのというのは何の意味もないことなのだと気がつかされました。
 何かを表現できるというのはなんて素晴らしいことなのだろう。それが轟木さんと初めて会ってすぐに浮かんだことでした。私のように『もの』を表現することを日常の仕事にしている人間にとっても轟木さんの『表現したい』という意志の強さは本当に驚きでした。そして新鮮でした。同時に今の私がテレビを通じて表現できることの幸せを強く気がつかされました。もし私が彼のような立場になった場合あそこまでものを表現することに没頭できるか疑問です。
 「加藤さんちょっと打ってみませんか。」加藤明氏ポートレート
彼のその言葉でコンピュータの入力ボタンを触ったときびっくりしました。あまりに弱い力でスイッチが入るので私の感覚ではスイッチを押しているのかどうかわからなかったのです。それほど轟木さんはか弱い力を微妙にコントロールしてコンピュータをつかいこなしているのです。彼の意志の強さは私にとっては驚きの連続でした。
 轟木さんと出会うことで三十分のドキュメント番組を作ることになりました。タイトルは『僕の気持ちを語りたい』。いつも番組のタイトルには苦労することが多いのですが、この番組だけは実にあっさりとタイトルが頭に浮かびました。それほど轟木さんの何かを表現したいという気持ちが私にストレートに伝わってきたのです。轟木さん。これからもあなたの心を強い意志で語り続けてください。

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