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手動車椅子から電動車椅子へ

 養護学校高等部在籍の十八歳の秋、手動の車椅子から電動の車椅子への移行という転機があった。歩行から車椅子へ変わるときとは違い、それほど辛いものではなかった。
 何故なら手動の車椅子での生活では、移動という極めて日常的動作に苦痛を感じていたからである。
 一日の生活は、時間に追われていた。人より車椅子を漕ぐのが遅れるため、人よりも早く移動を始めなければ遅れてしまう。食事の時などは、食事の始まる時間より二、三十分程早く移動を開始しなければならない。
 手動の車椅子の時は、自力で動いて行くには辛く他の場所へ行こうなどという気は起こらなかった。むしろ電動車椅子の人や通り過ぎて行く人達が、羨ましいという気持ちが強かった。
 「誰か車椅子を押しくれないか」「自分の行きたいところに連れて行ってくれくれないか」と思うことがしばしばだった。今でも辛そうな顔をして手動の車椅子で移動している人を見ると、辛かったときのことを思い出す。
 自分の行きたい時に、行きたい場所に行けるということがどんなに素晴らしく大事なことか。自分の思うようにならないということが、どんなにか自分を卑屈にしてしまうか。筋ジス患者ならば、一度は誰もが通る道である。
 電動車椅子での生活になれば途端に表情も明るくなり、外へと気分は向くようになる。