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はじめに

 この世に生をうけて三十年になる。多くの人に迷惑を掛け、また、わがままをいいながら生きてきた。 ここ南九州病院で療養するようになり、いつのまにか十七年の歳月を数える。この間、父や兄、療友との死の別 れ、友とのさまざまな思い出など数え切れないドラマがあった。人間の記憶とはこれ程までにいい加減なものか。私は不確かな遠い昔の記憶をたどりながら、反省もまじえていま書き始めている。全てフィクションではない。私の記憶を忠実に再現したつもりである。筋ジストロフィーの患者にとっては、少なからず同様な体験や感じ方を共有することもあろうが、生まれた環境の相違もあり共感できないこともあるかと思う。ただ私に残された僅かな筋力と命のなかで、パソコンに向かいながら、少しでも私のことを知ってほしい、覚えていてほしいという気持ちでこの本を書いてみた。 (1993.4)

著者近影
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