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ユニバーサル利用を目指した音声情報案内システム

畠山卓朗*1 萩原史朗*2 大久保紘彦*2 高橋 淳*3
C.W.ボンド*4 春日正男*5

Talking Signs System with Universal Design

Takuro Hatakeyama*1 Fumio Hagiwara*2 Hirohiko Ohkubo*2 Jun Takahashi*3
C. Ward Bond*4 and Masao Kasuga*5

*1: 横浜市総合リハビリテーションセンター *2: 三菱プレシジョン株式会社 *3: ミュージアムパーク茨城県自然博物館 
*4: トーキングサインズ社 *5: 宇都宮大学工学部情報工学科
*1: Yokohama Rehabilitation Center *2: Mitsubishi Precision Co. Ltd.. *3: Ibaraki Nature Museum
*4: Talking Signs, Inc. *5: Faculty of Engineering, Utsunomiya University


Abstract In the symposium held the year before last and last year, the authors reported on an audible signage system to help people with visual impairment for walking to their destinations safely on sidewalks and in buildings. On the base of this system, we have now developed an audible signage system with universal design. This new audible signage system provides a various information at the Museum and the other places. We evaluate this system and will report on the results.
keyword: audible signage system; people with visual impairment; universal design;

1.はじめに
 筆者等は,昨年までのシンポジウムにおいて,視覚に障害がある人が道路や建物内で安心して目標の場所まで歩行するための音声情報案内システムについて報告した[1][2][3].今回,これを基礎にして,一般の人々にも利用が可能なユニバーサル化した音声情報案内システムを開発した.
 従来,博物館や美術館等では,来館者向けに,展示物をより深く理解してもらうことを目的に,音声による案内システムを導入している.小型解説器を来館者に貸し出し,来館者は,展示物付近に示された番号を受信器に入力することで,展示物の解説を音声で聞くことができるものである.
 一方で,神奈川県立生命の星地球博物館(小田原市)では,著者らが開発した音声情報案内システム[1]をベースにして改良を加え,視覚に障害がある人々を対象として,受付やトイレがある場所の方向や,展示物の場所の方向および解説を音声で提供するサービスを行っている[4].
 しかし,わが国では,障害がある人へのサービスは始まったばかりの段階にあり,今後,システムをいかにして普及させるかが課題である.このような現状ではあるが,一方で障害の有無に関係なく誰もが便利に楽しく利用できるシステムの実現が望まれている.

2.ユニバーサル利用システムの提案
 図1は,筆者等がすでに開発した音声情報案内システム[1][2][3]の利用概念図である.これを基礎として,ユニバーサル利用が可能なシステムの実現を目指す.

図1
図1 音声情報案内システムの概念図
Fig.1 Image illustration of system utilization.

2.1 システム設計方針
 システムの主な設計方針を以下のように設定した.
(1) 周辺に何があるかを音声で知ることができる
(2) 方向に関する情報が入手できる
(3) その物や場所に関する詳しい解説などの情報も提供できる
(4) 操作方法は容易である(基本操作が片手ですべてできる)
(5) 情報提供の際,周辺にいる人への迷惑は少ない
(6) 提示情報の書き換えが可能である
(7) 多言語対応が可能である
 なお,視覚に障害がある人が本システムを利用する場合には,白杖を併用する.

2.2 システム構成
 システム構成図を図2に示す.システムは,電子ラベル部と携帯部から構成する.電子ラベル部は,建物などの情報を提示したい場所や,博物館や美術館等の場合には展示物付近に設置する.これにたいして,携帯部は利用者がストラップにより首に掛け,必要な時に手に持って操作する.電子ラベル部と携帯部は赤外線によるデータ通信で結合する.電子ラベル部の発光角度は±90度(ただし,設置場面の状況により調整を行う),携帯部の受光角度は±20度である.電子ラベル部と携帯部の通信距離は,電子ラベル部の赤外線の出力に依存し,最小60cmから最大20m程度とする.なお,電子ラベル部に記憶できる音声情報は,標準で最大60秒である.
 図3が今回新たに開発したユニバーサル利用が可能な携帯部(Type 3)である.携帯部本体には,小型スピーカを内蔵している.また,本体上面には,音声ボタン,解説ボタン,一時停止ボタンがあり,これらのボタンは,本体を片手で握った状態で,親指一本で操作できるように配置している.さらに,本体左側面には,多言語に対応するためのモード切り換えスイッチ,音量調整ボタンなどを配置している.本体右側面には,音声情報を収めるためのコンパクトフラッシュ・メモリカード(標準64MB)用スロットがある.音声情報はMP3圧縮方式を採用している.なお,携帯部の外形寸法はW60mm×H185mm×D33mm,重量は300gである.電源はリチウム−イオン充電式電池を内蔵しており,スピーカ使用時の連続稼働時間は約4時間(イヤホン時は約8時間)である.また,電子ラベル部の発光部は,直径80mm×厚み31mm×重量100gである.

図2
図2 トーキングサインズ・システムブロック図(Type 3)
Fig.2 Block diagram of Talking signs system (Type 3)

図3
図3 開発した携帯部(Type 3)
Fig.3 Developed receiver (Type 3)

2.3 システム運用
 利用者は携帯部を手に保持し,音声ボタンを押しながら,携帯部本体をゆっくりと左右に旋回させる.電子ラベル部からの赤外線が携帯部の受光角に入射した時,携帯部のスピーカから,ノイズの混じった音声(ラベル名称等)が発せられる.操作者は,その音声が最も明瞭に聞くことが出来るように方向合わせを行う.さらに,目標物に向かって徐々に移動しながら,携帯部による方向合わせを繰り返す.
 ここで,解説メッセージがある場合は,音声情報の最後に電子音(ピッ)が鳴る.その場合は,携帯部本体の解説ボタンを押すと,解説メッセージが再生される.メッセージの最後で電子音(ポン)が鳴り,メッセージの終わりであることを確認できる.なお,一旦解説が始まれば,,携帯部を電子ラベル部に向けておく必要はなく,利用者は携帯部のスピーカを耳元に近付けて聴くことができる.また,解説メッセージの再生中に,一時停止したい場合には一時停止ボタンを押す.また解説を始めから聞き直したい時は一時停止ボタンを数秒押し続ける.音声情報とID信号の関係を図4に示す.なお,携帯部の電源投入時に,レシーバの取り扱いについての解説音が再生される.

図4
図4 音声情報とID信号の関係
Fig.4 Relation between audio information and ID signal

3.博物館における新たな取り組み
 ミュージアムパーク茨城県自然博物館[5]は,入館者が楽しく見て・触れて・体験できる博物館を目指して,様々な先進的な取り組みを行っている.その一環として,本システムの導入が行われた[6].博物館主任学芸員が中心となって,調査,機種選定,機器導入,解説シナリオ作成,音声収録,モニタリング,展示解説員研修を行った.

3.1 システムに求められる要件
 博物館でのシステムへの要求事項を次のとおりとした.
(1) 視覚に障害がある人のみならず,一般来館者にとっても楽しく利用できるシステムであること
(2) さまざまな音が混在する館内においても,明瞭に音声を聞き取れ,また,他の来館者には雑音とならないような方式であること.
(3) 視覚に障害がある人が主体性を損なうことなく行動できるよう支援するものであること.
(4) 視覚に障害がある人が博物館に求める本来のサービスである学術的情報の提供,すなわち展示案内が十分に行える方式であること.

3.2 システム設置
 視覚に障害がある人ができるだけ館内を迷わずに,しかも,沢山の展示物を楽しめるよう,図5,6に示すように館内全54カ所に解説ポイントを設けた(展示解説32カ所,施設案内22カ所).解説ポイントには,図7に示すように一般来館者向けにヘッドホンマーク(直径95mm)を表示し,容易に見つけることができるようにした.音声収録は,展示物に合わせて,あたかもほんとうの自然の中に立っているかのごとく,臨場感にあふれる語りと効果音を取り入れた.

図5
図5 解説ポイント(2階)
Fig.5 Transmitting points (2nd floor)

図6
図6 解説ポイント(1階,3階)
Fig.6 Transmitting points (1st and 3rd floor)

図7
図7 解説ポイントであることを示すマーク
Fig.7 A sign representing a transmitting point

3.3 利用者のおもな感想
 解説内容等に対しては,必要十分な情報を簡潔に示していて大変良い(視覚障害者),展示についての理解が深まった,役に立った,楽しかった,解説を聞きながら(目をそらさずに)展示物を見られることが良かった,などであった.システム機器については,音量調整ボタンが押しにくい,大きくて持ちにくい,重い,などがあげられた.今後の要望としては,子供向けバージョンを導入して欲しい(視覚障害児の保護者),音声ガイドが聞けるポイントをもっとわかりやすく明示して欲しい,などである.

4.おわりに
 本システムは,博物館や美術館だけでなく,商業施設やテーマパークなど様々な領域で応用が可能と考える.今後の課題としては,携帯部の小型・軽量化,操作性の向上のための改良などがある.また,利用者の様々な属性や利用目的に適したコンテンツについても検討する必要がある.今後,検討を重ね,さらなるユニバーサル化を目指したい.
謝辞
 本システムの開発・試用評価を進めるにあたり,横浜市視覚障害者福祉協会福祉部会,茨城県立盲学校,ミュージアムパーク茨城県自然博物館の皆様から貴重な助言や多大なご協力をいただいた.この場を借りて,深く感謝の意を表します.

参考文献
[1] 畠山,伊藤,白鳥,城口,久良知,春日:音声歩行案内システム;第14回ヒューマン・インタフェース・シンポジウム前刷り集,pp.577-582(1998).
[2] 畠山,伊藤,萩原,大久保,中村,春日:個人用音声情報案内システム;ヒューマン・インタフェース・シンポジウム99前刷り集,pp.255-260(1999).
[3] 畠山,萩原,小池,伊藤,大久保,春日:音声情報案内のためのネットワークシステム;ヒューマン・インタフェース・シンポジウム2000論文集,pp.265-268(2000).
[4] 奥野:全国の盲学校の博物館利用に関するアンケート調査;神奈川県立博物館研究報告自然科学28号,pp.127-136(1999).
[5] ミュージアムパーク茨城県自然博物館
http://www.nat.pref.ibaraki.jp/
[6] 高橋:ミュージアムパーク茨城県自然博物館における視覚障害者対応型音声ガイダンスシステムの構築;茨城県自然博物館研究報告,(4),pp.165-174(2001).


ヒューマンインタフェースシンポジウム2001(大阪大学)にて発表

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