Abstract In the symposium held the year before last and last year, the authors reported on an audible signage system to help people with visual impairment for walking to their destinations safely on sidewalks and in buildings. On the base of this system, we have now developed an audible signage network system. This new network system provides a real-time information. We evaluate this network system and will report on the results.
keyword: audible signage system; people with visual impairment; network system;
1.はじめに
筆者らは一昨年および昨年のシンポジウムで,視覚障害者が道路や建物内で安心して目標の場所まで歩行することを支援するための施設向けおよび個人向け音声情報案内システムを開発し報告した[1][2].このシステムは,手元の小型スピーカから出される音声案内をもとに,建物の入口や公衆電話など,目的場所の方向を容易に見出すための赤外線利用の装置である.
今回,これを基礎として,リアルタイムに変化する情報の提供をも可能にするための,PCサーバーとネットワーク対応電子ラベルから構成するシステムを開発した.
本システムは,駅やバス停などにおける列車やバスの発着情報,売店などにおける商品販売情報,ホールなどにおけるイベント情報や緊急時対応情報など様々なリアルタイム情報の提供に利用できる.なお,有効性に関する評価試験も行ったのでその結果も合わせて報告する.2.音声情報案内システムの課題
従来からある視覚障害者向けの音声案内システムや誘導システムなどで提供される情報は,交通信号機などを除くと,そのほとんどが固定情報である.その場に不慣れな人にとっては有効な情報ではあるものの,ある程度その場に慣れた人にとっては,情報としての価値は小さく,有効利用されていない場合が多い.一方で,私たちを取り巻く環境情報は時間とともに常に変化しており,その多くは視覚情報として受け取っている.今後,街の静音化がさらに進められていく中で,視覚障害者にとって今以上に情報を得にくい状況が増えてくることが予想される.
以上で述べたことを背景として,視覚障害者からは,リアルタイムに変化する情報を容易に入手できることが強く望まれている.3.ネットワークシステムの提案
図1は,筆者等がすでに開発した音声情報案内システム[1][2]の利用概念図である.これを基礎として,電子ラベルのネットワーク化を目指すものである.図1 音声情報案内システムの概念図
Fig.1 Image illustration of system utilization.
ここで想定するネットワークシステムの具体的な利用例としては,以下にあげるいくつかの例が考えられる.駅構内や列車内での情報,商業施設などでの日替わり情報,病院や銀行などでの受付順番待ち情報などである.図2,3にネットワークシステムの利用概念図を示す.
以下,これを実現するためのシステムについて具体的に述べる.図2 システム応用例(駅改札口)
Fig.2 System application (ticket gate).図3 システム応用例(スーパーマーケット)
Fig.3 System application (supermarket).3.1 システム設計方針
システムの主な設計方針を以下のように設定した.
(1) 既存技術の応用
(2) 情報の定時・随時・即時配信
(3) 情報の一元管理・分散管理
(4) システム運用管理が容易
(5) システム拡張が容易3.2 システム構成
システムの構成図を図4に示す.システムはPCサーバ,クライアントPC,ハブ(ネットワークの中継装置),電子ラベルなどから構成する.また,それらを汎用ネットワークであるIEEE802.3(100BASE)で接続する.なお,システム規模に応じてハブの台数やクライアントPCの台数を増やせることはもちろんのこと,小規模施設等ではクライアントPCを省くことが可能である.また,ネットワークシステムに接続が可能な電子ラベルの最大数は254個である.PCサーバおよびクライアントPCにはWindows NTを採用している.今回新たに開発したソフトウェアは,情報案内登録ソフトウェア,通信制御用ソフトウェア,配信起動ソフトウェアなどである.図4 システムブロック図
Fig.4 Block diagram of system.3.3 システムの運用
(1)IPアドレスデータベース登録管理
電子ラベルの設定(使用・不使用),通信状態表示,詳細コメント(ラベルの設置場所などを具体的に記録しておくことが可能)などの情報の一元的な管理を行う.
(2)音声データベース登録管理
音声情報の録音,確認,登録を行う.また音声情報には詳細コメント(音声情報の内容をテキストデータで記録)を付加できる.
(3)定時シナリオデータベース登録管理
定時的に配信する音声情報の起動時刻および曜日,配信先電子ラベル,配信回数などの設定を一元管理する.
(4)随時シナリオデータベース登録管理
定時とは別に,いかなる時でも音声情報の配信が可能である.ここでは,配信先電子ラベル,音声情報などの設定を行う.
(5)即時音声情報配信(緊急配信用)
火災や地震などの発生時に流す音声情報をあらかじめ登録しておくことで,全ての電子ラベルに対して一斉に音声情報を配信することができる.また,その場で音声を録音し配信することも可能である.
以上の運用項目のうち,(4)についてはクライアントPCで独自に運用が可能である.図5に,画面表示の一例として,定時シナリオデータベース登録管理表示を示す.図5 画面表示の一部
(定時シナリオデータベース登録管理)
Fig.5 A part of contents on a display.
(A database of periodical scenario)4.システム有効性評価
ここでは,情報の利用者側と情報管理側の2つの側面から,システムの有効性の評価を行う.4.1 評価方法
4.1.1 情報提供場所と内容
横浜市障害者スポーツ文化センター「横浜ラポール」1階フロアの4カ所にネットワーク対応電子ラベル(L1〜L4)を設置する(図6).
電子ラベルの設置個所は,
L1:総合受付カウンタ
L2:玄関出入り口建物内部付近
L3:ロビー触地図設置場所付近
L4:売店前
である.
情報の内容はそれぞれ以下のとおりである.
L1:受付待ち時間案内および受付中番号案内(随時配信)
L2:現在時刻およびバス運行時刻案内(定時配信)
L3:視覚障害者卓球大会開催情報(定時配信)および地震情報(即時配信)
L4:お弁当入荷および売り切れ情報(随時配信)図6 評価試験実施場所の見取り図
Fig.6 A drawing of place for evaluation test.4.1.2 被験者
情報利用者側としては,視覚障害者24名(全盲13名,弱視11名)と高齢者20名,計44名に依頼した.また,情報管理者側としては,パソコン操作経験がある5名に依頼した.4.1.3 評価項目
評価試験は,個々の被験者に機器操作方法や情報提供場所がどこにあるかの十分な説明を行った後,実際に試してもらう.その後,表1に示す各項目について被験者に口頭で質問を行い,5段階評価を行う.表1 評価項目
Table 1 Evaluation items.4.2 評価結果
評価結果を表2に示す.まず,情報利用者への質問に関してであるが,被験者の全員がリアルタイム情報を有効と捉え,さらに情報によって安心感があると答えている.(評価段階5,4を対象)つぎに,機器操作および情報取得が簡単かの質問には,視覚障害者および高齢者の95%以上の人が簡単と答えた.
一方,情報管理者側への質問に関してであるが,情報登録や変更などの操作性については80%の人が良くないと感じている.(評価段階3,2,1を対象) 同様に,本来業務への影響についても60%の人が負担が増えると感じている.表2 評価結果
Table 2 Result of evaluation.5.考察
評価結果から,情報利用者側において,リアルタイム情報の提供の有効性があることを確認でき,当初の目標を達成できたと考える.一方,システム管理者側における評価結果からは,情報登録や変更などに関する操作性の更なる改善が必要であることがわかった.
当面の課題として,情報メッセージ内容の検討,情報登録・変更に関連する操作性向上を目的とした画面設計などがある.
今後,さらに検討を重ね,病院,公共施設,駅改札およびホーム等における早期実用化をめざす.
なお,本研究開発は,情報処理振興事業協会(IPA)が通商産業省より委託を受け,平成10年度「高齢者・障害者支援型情報システム開発事業」の一環として実施したものであり,三菱プレシジョン株式会社が開発委託を受けていることをここに付記する.
本研究開発を進めるにあたり,以下に掲げる方々から貴重な助言や多大なご協力をいただいた.この場を借りて,深く感謝の意を表します.元筑波大学付属盲学校 長谷川貞夫氏,東京電機大学 斉藤正男氏,横浜市総合リハビリテーションセンター 大場純一氏,横浜市身体障害者団体連合会 三浦辰男氏,米国トーキングサインズ社 C.Ward Bond氏,米国スミス・ケトルウェル研究所William Crandall氏,評価試験に協力いただいた方々.6.参考文献
[1] 畠山卓朗,伊藤啓二,白鳥哲夫,城口光也,久良知國雄,春日正男:音声歩行案内システム,第14回ヒューマン・インタフェース・シンポジウム前刷集,pp. 577-582(1998).
[2] 畠山卓朗,伊藤啓二,萩原史朗,大久保紘彦,中村孝夫,春日正男:個人用音声情報案内システム,ヒューマンインタフェースシンポジウム ' 99,pp.255-260 (1999).
ヒューマンインタフェースシンポジウム2000(筑波)にて発表
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()
![]()